脂肪と糖
「おいしいものは脂肪と糖でできている」。脂肪と糖で作るな。タンパク質で作れ。
おいしいものを食べるといつも幸福感に包まれる。箸が止まらなくなって気づいたらお皿は空っぽで、ああ私は前世でどれほどの徳を積んだんだろうかもしかして守護大名?シアワセ〜〜〜とそのままぱたんと眠ってしまう。
しかし翌朝体重計に乗るとマジで脂肪と糖に殺意がわく。あんなにおいしかったのに。あいつら甘い顔で近づいてその気にさせといて騙しやがったなクソがという気持ちになる。
たぶん脂肪と糖が男子高校生なら2人ともバチバチにモテるだろう。いい感じに制服を着崩してんだろう。サッカー部の脂肪と帰宅部の糖、でも仲良いから糖は音楽聴きながら脂肪の部活終わりを待っちゃったりなんかして。どうせ脂肪の親は自営業で、糖には2個上に姉ちゃんがいるんだろう。
脂肪は後輩女子の軍団に靴箱で会って「ヤバイマジカッコイイヤバイ」ってちょうど聞こえるぐらいの声量で言われるし、糖は校舎の窓に顔出した女の先輩から「ばいばーい」って手を振られるからしゃーなし会釈とかするんだろう。
あいつらの厄介なのは私みたいなモブキャラにも分け隔てなく接しやがるところだ。
だからそんな「脂肪派?糖派?うち脂肪派~」の論争に私だってもれなく加わってああでもないこうでもないって真剣に悩んで。どっちを選んでも体重計に乗れば傷つくのに。
きっと脂肪も糖もモテてきたから大学では遊びを覚えてしまう。ろくなやつじゃない。同じ大学に行った私はそんな2人を横目で見ながらタンパク質と付き合う。タンパク質は裏切らない。真面目で誠実。それでいて育ちがいい。
けれどタンパク質といても何か物足りない。ユーモアもないしファッションも無難だし…パサパサしてるし……醤油ないと味しないし………
やばい。脂肪か糖と付き合いてえ。
こうして私は過ちを腹に決め今夜も脂肪と糖にラインを送り、たまたまバイト帰りで時間が合った方とワンナイトしてしまうのだ。
でも「なんか好きになってしまったぽい」と言ったところで「んー?でも俺のゼミ忙しいけえあんま会えんし俺なんかやめといたほうがいいよー?」みたいな交わし方をされる。
どうして私ばかりこんな仕打ちに遭うんだろう。脂肪と糖にもバチが当たればいいのに。就活失敗しろ。それか楽天ポイント失効しろ。
そんな失意のどん底を味わいながらこの時間にバッキバキの目でエクレアとファミチキ食べた。