全部おとぎ話であれ

きらいなものを1000文字で語る

いいこと教えてあげようか

「いいこと教えてあげようか」に秒で「いや大丈夫です」と答えられるか選手権があったら日本記録保持者になれる。そういうときの「いいこと」は「きみの3歩先に500円玉落ちとるよ」以外はマジでいいことじゃない。

 

 

先日昼休みに会社でエレベーターに乗っていたらぞろぞろとサラリーマン軍団が乗ってきて、1階につくとみんなぞろぞろと降りていくので仕方なく開ボタンを押したまま立っていた。

 

するとその軍団の最後の一人が「よっ!エレベーターガール!」と言って細かく拍手する仕草をしてきた。

 


もしもこのような状況が起きたときに取るべき行動は次のうちどれか答えよ

 

 

1.会釈

 

 

2.愛想笑い

 

 

3.は?誰やねんジジイお前ブチ殺すぞ

 


まずもって1と2は間違いだし3は人としてどうかと思う。でも3をちょっとマイルドにした感情は手にとるように理解できる。そして最もやってはいけないのがコチラ

 

 

「えっ」

 

 

はい、まあこれは私が実際に先日やってしまった例なんですけど「えっ」はもう一番ダメというかセンスないですよね。受け入れるでも拒否するでもない「えっ」がこの世で一番話が前に進まないやつですよね。性格の淡白な恋人からの突然の「なあ、結婚しよう」に対する「えっ」のテンションで私は、もといエレベーターガールはこの世にまた一つ行き場のないクエスチョンマークを生み出してしまったんですよね。

 

 

 

そもそも初対面の他社のおっさんになぜエレベーターガールと職種を断定されにゃいけんわけ?私がお前に職業の選択委ねたか?大学のキャリアセンターで就活のコンサルでも頼んだか?それともお前ハリーポッターのクラス分けの帽子か?「グリフィンドール!」のテンションでエレベーターガール押し付けてくんなお前は

 

 

とまあ嫌な記憶として残っていたそのおっさんと、まさかの今朝ふたたび会社のエレベーターホールで遭遇してしまった。あ?あいつやんと思いながら同じエレベーターに乗り、私は行き先ボタンを押してすぐ隅に寄りエレベーターガールになることを回避した。

 

 

そのおっさんはたぶん基本がお調子者らしく、今日も朝からちょい高めのテンションで背の高い同僚と話をしていた。おっさんはゴキゲンな様子で同僚に「いいことを教えてあげようか」と言った。「なんですか?」と同僚は言った。

 

 

 

「忘年会たぶん酔心~」

 

 

 

おっさんは抑揚をつけて言った。酔心(広島の有名店)という言葉に同僚は「へ~マジすか!」と返した。朝にちょうどいいレベルの「いいこと」を言い残して、おっさんは自分のフロアで降りていった。私はぐんぐんのぼるエレベーターの階数表示を見ながら息を吐いた。あのおっさん社内で人気者だと思うわ。なんかもう最後少年に見えたわ。