全部おとぎ話であれ

きらいなものを1000文字で語る

黒歴史

過去の自分が嫌いだ。私は中学では厨二病キッズとして過ごし、大学では恋愛脳なすっからかん女子大生として過ごした。とりわけ高校がやばかった。あの頃の私はというとバカと怠惰のハイブリッドで、「今さえ良ければいい」の極みのような生活態度で過ごしていた。


今日、実家でプリ帳を見つけた。プリ帳とはプリクラ帳の略で、当時の女子高生にとってはアイデンティティを可視化する唯一無二の持ち物だった。これが本当に直視できないほどの黒歴史のかたまりなのである。


まず飛び込んできたのは頭に一本きのこのようなものが生えたキャラクター。その名は私が親友のサトと一緒に作った「宇宙生命体ポゲロン」。まじで意味が分からないのだがこのキャラが私たちの間でヒットし二人で様々な表情のポゲロンを描いてついには「愛の架け橋ポゲロン」というホームページまで作っていた。


私は当時3つのホームページを運営しておりポゲロンはサトと交互にブログを書く交換日記テイストだったのだけど、それが意外と周囲から好意的な形で浸透して「ポゲロン更新まだ?」と言われるほど生活に馴染んでいた。なんならポゲロンを真似て描く友人に対して「いや著作権あるから」と本気でキレていた。しょうもないもんにプライド持つな。あとキャラデザなめんな。


そんな私の大切なポゲロンは、高1の時に自主退学した元クラスメイトの男にネトストされBBSで熱烈に愛のメッセージを受けるようになったのでサトが全消しし、その姿をこの世から消した。


プリ帳の別のページには「街~feeder~」とレタリングしてあった。わたしの通っていた高校は3年生になると文化祭で各クラスでオリジナルの演劇をするのだが隣のクラスの演目がこの「街~feeder~」だった。


スラム街で貧しい生活をする主人公が仲間にそそのかされて悪さで金を稼ぐようになり、母親を誤って殺めてしまうというもうこの時点で顔真っ赤になりそうなこのストーリー。この劇の冒頭で主人公が悪友に言い放つ「なんだよそれ!お前もこの街に染まんのかよ!俺はぜってぇやらねえぞ」という台詞を、稽古に通りかかったことでたまたま目にした私は「おもろすぎんか」と震えた。


そして皆が文化祭の準備に没頭しているのを横目に、同じ部活だった悪友K子と非常階段へ行っては「なんだよそれ!お前もこの街に染まんのかよ!俺はぜってぇやらねえぞ」をどちらがマンキンでやれるか対決しては爆笑するという悪行を死ぬほど繰り返した。バカと怠惰に性根の悪さまで加わった忌々しき記憶が蘇って頭を抱えた。


ちなみにこのK子も奇行が多く、なぜか私たちはいつも食堂でラーメンを頼んでは右手で左側の髪を首の後ろからかきあげる「エロいラーメンの食べ方」の習得に励んでいた。またある時は「スプリングカミングス—ンYES!」という言葉の語呂にハマり、またどちらがカミングに鮮やかなアクセントを乗せられるかを競っていた。二人とも舌が滑らかになりすぎて最後らへんはもう「カミングスーニェスッ」にのぼりつめていた。


サトはポゲロンで磨いたイラストスキルによって卒業後はデザインを専攻し、K子はその独創性とリズム感を活かして音大へ進学した。私だけがシンプルにただのバカで、こうして黒歴史の詰まったプリ帳だけが残った。


でもあの高校での歴史が今の自分を形作っているのだと考えると、黒歴史といえどどうにも捨てがたいなと思う。あれから10年以上以上経った今もきっと私の根っこはあの時のままで、だから文化祭の結果発表で賞が取れずに号泣している別のクラスの熱血女子たちの横で「もっと、もっと、輝けるのヴァ~タフラ~~イ」と倖田來未のモノマネができるサイコパス具合も本家本元の私なんだろう。


いつか子供が変な行動で自分の個性を表現するのを見かけても、慈悲深い微笑みで見守ることを誓います。

おしまい

 

 

 

 

 

サトと私の話

 

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