ファミレス
息子のミニバスの練習試合だった。息子の勇姿を楽しみにしながら、まずは腹ごしらえをと夫らと出かけた。娘の希望で近所のファミレスになった。
コロナ対策としてマスクとアルコール消毒の確認を受け、窓際の席へ通された。最近のファミレスはタッチパネルで注文なんやね~と話しながら注文をした。
単身赴任で最近特に忙しくしている夫と久しぶりにこうしてゆっくり食事がとれるなんてなあと喜びをしみじみ噛みしめていたとき、夫が「ねえ」と声をかけてきた。
「あの人らの会話ヤバくない?」
え?伊勢谷友介いた?と思いながら顎で指す方向に目をやると、斜め前のテーブルで男ふたりが喋っていた。白いポロシャツでメガネをかけた人と、背中しか分からないチェックのシャツの人。白いポロシャツが意気揚々と話している。
「で、40歳になったら1万円ずつ入ってくる。月にじゃないですよ?(笑)月にだったら生活できないんで(笑)日に、です。日に1万です。ただ寝とるだけで日に1万。つまり貴方の代わりにお金が働いてくれるんですね~」
いや、うさんくさい。うさんくささ極まりない。けれど白ポロの語り口は流暢でリズミカル、その道のベテランであることは間違いなさそうだった。
私と夫は「やばいやん」と言いながら笑い合って、また自然と別の話題に移った。
すぐにチーズインハンバーグが運ばれてきた。喜んで食べていると夫がまた「ねえ」と言った。
「今度は何?」
「ちょい、こっちもヤバい」
夫は白ポロとは反対側のテーブルを指差した。けれどそっちのテーブルはちょうどパーテーションで遮られていて見えない。私は耳をひそめて声を拾った。
「祈りのない人を守らないの、◯◯◯様は。あなたのお母さんもお父さんも近所の人も世間の人もみんな、憐れんどる。あなたのことを。みーんな憐れんどる。憐れむって意味分かる?」
話題の香ばしさが増してるやん。このファミレスどうなってんの。てかここ私の生まれ育った町やんけ。ワイこんなキナくさい地で育ったんか?
とまあ若干複雑な気持ちになったりもしつつ左に謎のビジネス、右に謎のセミナーを受け止めながら私たちは黙々と食事をした。これオセロだったら真ん中のウチらも引っくり返ってマトモじゃなくなるくね?もしかして店員がそういう配置にした?店側の意図?
途中、やっぱり右のセミナーが気になってトイレへ席を立ったタイミングでチラ見すると普通のおばちゃんが7人いて真ん中の人がただひたすら喋っていた。えっとどれが憐れまれとる人ですか?と会話に入りそうになった。
気が散りすぎて味が分からなくなってきたのでちょっと足早ではあったが食事を終えることにした。
我が家は財布が別なので「あ~今日は私が払うわ」と伝票をとると夫が「頼むわ。オレ金ない」と言ったのでイラッとした。おいおまえ金ないんなら今すぐ白ポロの男のテーブル行って40歳から1万ずつ貰える話聞いてこいや!!!あと右は右でおばちゃんがおばちゃんを憐れむな!おばちゃんとおばちゃんは助け合え!!!
とまあ無駄にストレスの溜まった冴えない日曜日の昼下がりだった。退店した後、窓の外から目をやるとさっきまで私たちのいたテーブルに同じような核家族が案内されていた。その采配やめろ。どんな手法で店の回転数上げとんな。