全部おとぎ話であれ

きらいなものを1000文字で語る

自転車

自転車が嫌いだ。車輪が細い。あんな自立性のないものに体を預けられる奴の気が知れない。カイジの鉄骨渡りとほぼ同じだろ。

 

 

人に話すとたいてい笑えない話になるのだが、高校の時に自転車に乗った男にすれ違いざまに股を叩かれたことがある。

 

 

一人で学校から歩いて帰っていると前から猛スピードの自転車が迫ってきて、その男が私のスカートに手を伸ばした。おそらく脚を触られるとかスカートをめくられる流れだったのだろうけど自転車のスピードが出過ぎてそいつの手首が私の恥骨に思い切り当たった。クッソ痛かった。その恥骨殴り野郎はふっとんだ私を振り返ることもなく猛スピードのまま逃げ去っていった。

 

 

痛さと恥ずかしさで動揺しまくった私はむくりと立ち上がり、何を思ったかその後偶然会った友人カップルに事の顛末を興奮して説明した。持ち前のサービス精神ですべらない話のように派手に話してしまったが家に着くとだんだんと腹が立った。こっちが歩きなのに自転車のスピードは卑怯だし万が一転げて骨とか折れとったらシンプルに交通事故やろうが。

 

 

ちょっと真面目な話になるが女、とりわけ若い時の女というのは恥ずかしさという駅から怒りという駅まで電車が直行せず、なぜか恥ずかし駅を発ったはずなのに気づいたらお笑い駅だとかごまかし駅だとかに到着してしまう。泣いたり怒ったりする方がずっと素直なのにそうはなれない複雑な沿線に迷いこんでしまうことがあるのだ。

 

 

話を戻すと自転車という至極アンバランスで心もとない乗り物に体を預けそれを片手で操作しつつもう片方の手で田舎の女子高生の股を叩くという危険度の高い動作は、もう少しリスクの少ない性欲の発散の仕方があるんじゃないかと思えてならないし、もしあいつが自転車じゃなくて一輪車に乗っていたら私は股に加えて胸まで触られていたのかもしれない。

 

 

だから今度も自転車を信用することはない。18歳以降は乗った記憶もない。

 

 

ただ自転車のスタンドを考えた奴はマジですごいなと思う。あの細くてまっすぐな棒を斜めにつけて「あ~これで固定できるジャン!」と町工場が沸いたと思うとプロフェッショナルよろしく胸の奥が熱くなる。