全部おとぎ話であれ

きらいなものを1000文字で語る

化粧水と乳液

化粧水と乳液が嫌いだ。水分を与える行為と油分を与える行為の双方にお金がかかる。めんどくさい。シンプルにめんどくさい。

 

 

だから「化粧水と乳液、これ一本!」みたいなオールインワンタイプのものを日々使用している。私は美容に疎い。あまり老いに抗う心意気もない。

 

 

一度、美意識の高い友人に「オールインタイプは手軽だけど効果が薄いよ」と言われたことがある。ちょっと待て。はよ言え。キャッチコピーどおりに言葉を受け取る人間オブザイヤ—の私ぞ?リンスインシャンプー使用歴20年の私ぞ???

 

 

それでも私には化粧水と乳液を順番に丁寧につけるという段階を受け入れられない。間に美容液を挟むなどもってのほか。どっちかにしてほしい。一人しか愛せない。どっちが大切かという問いなら東出昌大に聞いてほしい、たぶん乳液と答えると思う。

 

 

ただ皮肉なことに私の肌は強い。顔が美人だとかスタイルがいいとか褒められることの無縁な人生だったが肌だけはやたら褒められてきた。

 

 

なんなら化粧水や乳液をつけ始めたのも30歳になる手前からだ。もうこれは神様が私を作るときに「こいつは絶対化粧水せーへんやろ」と見越して備えつけてくれた初期設定としか思えない。

 

 

ねずみ講にどっぷりだった友人に薦められて買った化粧水と乳液が、使われることなく洗面台の棚からこちらを睨んでいる。はやくシミを作れと睨んでいる。自分たちを渇望しろと睨んでいる。

 

 

私はいつも風呂上がりに全裸でその視線を受け止める。受け止めているにも関わらず手軽なオールインワンを使う。ばち当たりだ。来世では神社の賽銭箱に前代未聞の1000円札を入れようと思う。そうすれば今世の罰とトントンになる。

 

 

そんな風にもろもろ考えてもやっぱり好きになれない。化粧水と乳液。そんなんだったらもう化粧水(前編)と化粧水(後編)と名乗ってほしい。それか「手間ひま」と名乗ってほしい。手間とひま。マナカナみたいでいい。手間が水分でひまが油分。ひまが油分?油分に敬意がなさすぎんか?