全部おとぎ話であれ

きらいなものを1000文字で語る

女の子です

子どもを二人とも帝王切開で出産している。

 

 

2人目を産んだ個人病院の医師は野球選手みたいにガタイの良いおじいちゃん先生だった。先生は診察のたびに威勢よく「性別は言ったかいね?」と言った。「聞きました」と言うと「おーそうか!はい、女の子ですよ!」と豪快に笑った。私は上の子の時も最初「女の子」と言われていて結果男の子だったので特に気にしていなかった。

 

「性別は言ったかいね?」と聞かれ毎回「聞きました」と答えるくだりには慣れていった。確かに中には赤ちゃんの性別を知りたくない・生まれた時のサプライズに残しておきたいという人もいるので、慎重に「性別は言ったかいね?」と確かめてくるのも無理はないと思った。先生はたった一人で日々何十人もの妊婦さんの相手をしているのだ。性別を言ったかどうかなんてひとりひとり覚えておくのは難しいだろう。

 

 

けれど臨月にさしかかってもまだ先生は「性別は言ったかいね?」と聞き続けた。ある日いよいよもうすぐ生まれますよという時期になってもまた「性別は言ったかいね?」と聞かれ、ちょっとイラッとしたので「性別はいいです」と答えた。

 

 

すると先生は「ああ、はいはい」と含み笑いをした。あーなんか勘違いしとるっぽいなと私は思った。私はもう性別を知ってるから「性別はいいです」と言っただけで「性別は伏せてくれ」という意味ではなかった。けどまあ面倒くさいので放っておいた。

 

 

さて翌週ついに手術日となり帝王切開の私は予定通り前日から断食し出産に挑んだ。手術室で真っ裸になり手術台の上に横向きに寝転がる。背中に下半身麻酔のクソ痛い注射をして、妙に冷静な脳をおいてけぼりにしてお腹を切り子宮を開く。

 

 

その間ずっとおじいちゃん先生はカープの試合について麻酔医師と話していた。年配の看護師さんが「先生は妊婦さんのリラックスのためにあえてこんな話をしてるだけだから」と手厚いフォローしてきてベテランのホスピタリティを感じた。

 

 

そして「生まれましたよ~」という言葉と共にベタベタしてそうな質感の我が子が抱き上げられた。私は首だけ動かしてそれを見た。二度目でもやっぱり感動するなあと思った。

 

 

 

 

我が子は別の看護師さんに連れて行かれ、おじいちゃん先生は「じゃお腹を縫うね~」と微笑んだ。けれどその後カープの話を途中でぴたと止め「あ、そうそう性別は言ったかいね」と言った。

 

 

え?いま????と言葉に詰まっていると先生は白い歯をカッと見せて「性別は~……女の子です!!!!!!!!!」と言った。

 

 

 

 

 

私は「あら~」と言った。あれから6年。元気に育った娘は7月1日に6歳になる。